オレンジジュースを求めて行ったスーパーで、初めてセルフレジなるものに挑んだ。
有人レジが混んでいたのだ。長蛇の列だった。新台入れ替えのパチンコ屋の列のようだった。このレジに並んだら、夜が明けるだろうと想像させるほどの長っぷりだった。
向こうのレジが空いていて、親子がスキャン台をはさんで商品を移動させているのが見えた。
なんだ? お店屋さんごっこか?
ぼんやりとした頭で眺めること2秒。
セルフレジという案内がぶら下がっている。
ああ、自分で会計をしてるんだ。
数台あるセルフレジはガラガラである。レジを待って夜を明かすといったことはなさそうだ。
私にもできそう。
なぜなら私はかつて、レジ打ちを生業としていたからだ。
怒鳴られ、絡まれ、金を投げられ、何かをぶっキメているような血走った目で何を言っているのか分からない言語をずっっっっっと口走っている男もいた。
こんな連中にはなるまいと誓わざるを得なかったという大変よい経験がある。
バカなくせに好奇心旺盛な私は、謎の自信を引っ提げてカートを押してそちらに向かった。
レジに迫ると、レジが女の人の声で喋った。
スキャナーの右側に商品をかごごと置け、と。
言うとおりにすると、レジは次の指示を出した。
袋を買うか、持参しているかタッチパネルで選べ、と。
言いなりになって「エコバッグ」という画面表示をタップする。
レジは次々指令を出す。
左側に袋を引っかけろこの野郎。ぼやぼやするな、それが終わったらスキャンしろ。
おう、スキャンなら任せとけ。
わたくしのスキャンの腕前はちょっとも衰えてなかった。レジが価格を読み上げるのだが、それが間に合わないほど早い。
かつて私が属していたスーパーではスキャンの速さと丁寧さの試験が随時あったのだ。
かましてやったぜ、ざまあみろ。
スキャンが終わると、こちらが勝利に酔いしれる間も与えずに機械が言った。
支払い方法を選べ、と。
タッチパネルには残念ながら、支払わない、という選択肢はなかった。
待てば、支払わない、という選択肢が表れるはずだと予想して待ったが、ガンとして表れない。
機械が、支払い方法を選べ、とまた告げた。
さっきより若干声がでかくなったような気がする。しっかり者の借金取りのようだ。
とっとと払えこの野郎というような雰囲気でまた言った。優秀な役場町税課職員のようだ。
私はおとなしく精算した。
レシートがべらべらと出てきた。
もうちょっと詳しくスキャナーを観察し、コミュニケーションを取りたく、じっと見ていたら、「どうされました?」と店員さんが私の後ろに迫った。
「スキャナーを観察し、コミュニケーションを取りたかった」と打ち明けたら、別の店員を呼びそうだったのでやめておいた。
セルフレジ、おもしろい。
帰宅してから気づいた。
オレンジジュースじゃなく、いいちこを買ってきてしまった。