続き。
数年前。スーパーで押しの強い上品なおばさまに声をかけられた。
私は宗教の勧誘だと推察して身構えた。
度々宗教者には目をつけられる私である。
そんなに不幸そうに見えるのか。
そこそこ幸せです。
たまに、腰を据えて死に方を検索しますが、いってもその程度で、概ね幸せです。誰が何と言おうと私は幸せ者です。
だいたい、死にたくなったことがない人はいないだろ。
彼女は
「あなた心が純真無垢で、優しいでしょう。あたしには分かるの」
そうおっしゃる。
私は、そんなことはないです、と本気で否定する。
「純粋どころか、腹の中はドブ色です、溶けてます、臭ってます」
「あら、やあねえ。ご謙遜を」
朗らかにおっしゃるご婦人。
やっ……べえ。。
自分自身、目をキラキラさせている彼女をだましている極悪人のような気がしてきた。
お願い、おばさま。目を覚まして! 正気になって! そっちに行っちゃダメ! と叫びたい。
もう、罪悪感でいっぱいで、目がキョドってくる。挙動不審にもなってくる。
そして、アルコールが入ったかごを背後にそっと隠す。おばさまに目を覚ましてほしいのか覚ましてほしくないのか自分の行動の理由が見当もつかなくなる程度には混乱している。
この場にあぐらをかいて片っ端から「ほろ酔い」を開けてあおりたい。ほろ酔いどころか、泥酔したい。泥酔して罪悪感を忘れたい。あとこれまでのあれやこれやの記憶も忘れたい。
じつはね、とご婦人はおっしゃった。
「紹介したい男性がいるのよ」
と。
続く――。