
ちゃっけがいる移動図書館
ちゃっけは日本犬ミックスの子犬だ。
移動図書館中に拾った。
移動図書館をご存じの方もいらっしゃると思います。
図書館の本を、バスに積んで町内の各地域に赴き貸し出しする図書館業務です。
私も図書館勤務当時はやっていました。
物語では、このバスに子犬も乗って皆様のところにやってきます。
事情のある人たちと交流しながら、相互に作用しあい、緩やかに変化していきます。
農村の彩り豊かな景色や、鮮やかな四季も楽しんでいただけると幸いです。
うちで昔飼っていた犬(Xのアイコンやこのブログのプロフィール画面の見返り犬)も拾ってきた子だ。
子犬の頃は黒くて短毛。むくむくしていて、ドンくさかった。大きくなるにつれて毛が長くなりくせっ毛になって茶色になった。
拾ってきた当初、犬ならばボールが好きなはずだと見込んで、野球ボールを投げると、顔面で受け止めて尻もちをつきぼんやりしていた。ひたすらにドンくさかった。そんな彼女を他人事とは思えなかった。
ラジオを聞かせると、目を見開いて尻もちをついた。ついたままあとずさった。
返す返すも、誰かを見ているようでいたたまれなかった。
一週間二週間と暮らしているうちに、彼女はうちの生活にも慣れ、堂々とし始めた。
名前を呼ぶと、「やれやれ」といった具合にのろのろとやってきた。
私の正面に座ると、「で、なんですか。話があるなら聞きますよ」という具合に見上げた。
私の話が長くなると、あくびをして丸くなった。
「そんなこと、どうだっていいじゃないですか」
という具合だった。
彼女の家の中での順位は、私より一つ上だ。
私の「お手」「お座り」の業務命令には、耳をかいたりあくびをしていたが、その他の家族には軍隊もかくやといわんばかりにきびきびと従った。
尻尾を振って、舌を出して笑顔を向けた。私以外には。
私とはよくケンカをした。散歩や、掃除、おやつの時に。
帰りたくない彼女と帰りたい私。
箒にかみついてくる彼女と、掃きたい私。掃除機で復讐を試みる私と、背後に回って膝の裏をどつき倒してくる彼女。
おやつをじらす私ととっととよこせといきり立って吠える彼女。
ご飯の時も、なぜか張り合って私の隣で食べ、テレビを見る時も私と並んで見ていた。私が家族と話していると、家族と私の真ん中の位置に座って自分も会話に参加した。が、彼女にとっては自分自身の話題以外はすべて「しょうもない話」となったようで、五分とたたず寝るのだった。
彼女は、自分の名前が呼ばれるのがこの上なく好きらしかった。
逆に私は、名前を呼ばれるのが嫌だ。名前を呼ばれるイコール「叱責される」「詰問される」「仕事を言いつけられる」などの現在に渡って脈々と継続してきた実績から、良い感情を持てないのだ。
「ちゃっけがいる移動図書館」はそういうことを思い出しながら書いた物語です。
登場する子犬は、自分で言うのもなんですが、非常にかわいらしいです。コロコロしてなんにでも興味を持って、毎日嬉しそうです。この子犬にとって飼い主の女性は全てです。呼べばもちろんすぐに駆け付ける。呼ばなくたってそばにいる。
常に飼い主を見ている。
ご高覧いただければ、犬と暮らしたくなること間違いなし。
今回も中央公論新社のY編集さんにたいそうお世話になりました。
的確で明確な指示やアドバイスを頂戴し、モノになるかどうか分からなかった物語が息を吹き返し、立ち直りました。辛抱強くつきあってくださいました。感謝に堪えません。ありがとうございました。
絵師のはやしなおゆき先生が愛らしいむくむくの子犬を描いてくださいました。
また、表紙の移動図書館の様子ものどかで広がりがある雰囲気を柔らかなタッチで描き出してくださりとても感謝しています。ありがとうございます。
「ちゃっけがいる移動図書館」は8/20 中央公論新社から発売です。
どうぞよろしくお願いいたします。