洗濯機のスイッチを入れて、洗濯が終わるまでひと眠りした。
目が覚めたら一時間たっており、洗濯は終わっていた。
ふたを開ける。
一番上に、父の黒いボクサーパンツがある。
手に取って、「ん?」と首をかしげたのは、濡れていないから。
どういうことだろう。
その下の洗濯物はしっかり濡れている。
なぜ、おパンツだけが乾いているのか。
もしや、洗濯がすんだとは知らずに洗濯機に父が放り込んだのではなかろうか。
爆発物処理班として、命の危険を顧みず鼻を近づけてみる。
万が一のために、遺書を書き残しておくべきかとの考えが頭をよぎる。
洗剤の匂いはしない。ちなみに私はNANOXを使っている。
だからと言って別の臭いもしない。
しばらく洗濯機の前にたたずんで考え込む、父のパンツを握りしめて。
ウグイスの声が聞こえてくる。
考えるのは元来得意ではないので、すぐに結論が出る。
「よし分かった」
風呂場でガシガシと手で洗ってギュウッと絞った。
庭に干していると、父が茶の間から顔を出した。
「あのぉ……お姉さま……」
恐る恐るである。最近、父は言いづらいことがあると、私を「お姉さま」と呼ぶようになった。要するに、私は叶姉妹の恭子である。
「なに」
と、答えて父のパンツをぶんぶんふってしわを伸ばす。しぶきが飛ぶ。
「お姉さま、今干してらっしゃるということは、それはそのぉ」
と、叶美香さんが尋ねる。言いづらいことがあると敬語になるのである。
「洗濯機が終わった後に入れたんじゃないかと思って、洗ったよ」
「ああああ、やっぱり。すみませんねえ」
と父が頭に手をのせて謝る。
「気にしないで。でも手で絞ったから乾きにくいと思うよ」
「はい。はい」
「ちゃんと乾いてからはいてよ」
「はい。はい」
父は恐縮して茶の間に引っ込んだ。