この度、「バカ塗りの娘」という映画になる「ジャパン・ディグニティ」の新版です。
2014年に出版した「ジャパン・ディグニティ」に、アフター物語「あとは漆がうまくやってくれる」を収録しました。
津軽塗職人・美也子とオランダへ尚人とともに渡ったユウたちのその後のお話です。
美也子は日々、津軽塗に向き合っていますが、淡々とやってきた仕事の雲行きが怪しくなっています。
そこに、隣家に住まう吉田のばっちゃが、あることを頼みに来ます。
その依頼を完遂するべく、美也子はリモートでオランダのユウたちにも協力を頼みます。
さて、うちの町には映画館がないです。
映画館はないけども、映画は見たことがあります。時は小学生の夏休み。場所は公民館です。
「11ぴきのねことあほうどり」と「うちのタマしりませんか?」の二本立てでした。
ゴザの上に座って、大型の扇風機が回る中、汗を流しながらの観覧。遠くのしわぶきや、煎餅の音。おしりの痛さとゴザの香りと、おばあちゃんのシップの匂いと赤ちゃんのおむつの匂いがして地味に大混乱した中での観覧でしたが、その当時はあまり気になりませんでした。なにしろ暗幕が張られただけで私たち小学生は大興奮だったのです。
見終わったあと、猛烈にコロッケが食べたくなったし、その辺を歩いている猫を片っ端からタマと呼びました。猫は賢く、たいていの猫は聞こえないふりをしました。
この時、まさか自分が書いたものが映画になるなどとは夢にも思っていません。
というか、自分が小説を書くようになろうとは毛ほども思っていません。
ただただ、公民館に映画が来ると聞いて駆けつけ、初めての映画を見て感動し、そして走って帰って、スイカをナタで割っている祖母に「テレビがでかかった! コロッケがこーんな大きかったよ! タマがかわいかったよ!」と汗とつばきを飛ばしてまくし立てました。
恐らくこの時の将来の夢と言ったら、巨大なコロッケを食べることと年金生活だったと思います。(今の夢は、胃もたれにより巨大コロッケはあきらめましたが、年金生活だけはあきらめてません。)
この度の映画「バカ塗りの娘」。
試写会で拝見しましたが、弘前の岩木山、美しい景色、四季、日々の暮らし、眼差し、人々の生き方、人生の選択。
それらがたっぷりと詰まっていました。
ぜひ、ご覧ください。
既刊を読んでくださった皆様、アミューズ様、ハピネット・
また、アフター物語を書くにあたって、津軽塗作家の白川明美様@urushiakimiにご教示いただきました。的確で明快に教えてくださり、とても助かりました。「隣の晩ごはん」的(そういう番組がかつての日本にはあったのですよ)急な取材にも快く応じてくださり感謝のしようもございません。
表紙を手掛けてくださいましたとみこはんさん@tomikohan 消しゴムハンコのガーベラ、カラフルで、とても愛らしくて品があって大好きです。
編集のFさんは、ジャパンディ・グニティを暮らしの小説大賞に応募した2013年時からのおつきあいです。
当時、書籍化に際してFさんが弘前市にお見えになり、コンビニで地元の新聞を購入していたのを覚えています。仕事熱心な方だなあと胸を打たれました。
ちなみに私がコンビニなるものに入ったのは、その時が初めてでした。子どもの頃の個人商店のように、入店時に音楽が鳴ったことに郷愁を掻き立てられました。コンビニというものが新しいのか古いのか分からなくて不思議でした。また、「あらっ棚が低いわっ」と感動したのを記憶しています。
Fさんは、執筆の右も左も分からなかったぴよぴよたまひよの私に根気強く伴走してくださいました。当時は、編集さんが口にする「ゲラ」も「ルビ」も分かりませんでした。ゲラに書かれた「トル」という文字が、私には地図記号に見えていました。
私の原稿は、いくらでも悪いところを挙げられるでしょうに、苦心に苦心を重ね、顕微鏡をもってして探し出した微生物サイズの良いところを見つけて、励ましてくださいます。
執筆の能力や力は今も当時と変わりません。というか、ぴよぴよっぷりによぼよぼっぷりが加わったのでさらに手に負えなくなっているはずで、大変すまないと思いつつ、大概開き直っています。
多くの方から助けていただきました、
「新版 ジャパン・ディグニティ」は 2023年7月18日発売です。
どうぞよろしくお願いいたします。