面倒くさい。
健康診断である。
朝、うっかりして鳥がつついたリンゴや賞味期限の切れた魚肉ソーセージをかじりそうになる。
あ、話は突然変わるが、あの賞味期限の切れた魚肉ソーセージ、汁が出るって知ってました? 期限が切れると、透明な液体が染み出てくるんですよ。あれ何なんだろう。うっすらとしたうまみは感じられるけど。
話を戻すが、今、2021年である。21世紀になってしばらくたつわけだ。
それが、いまだに腕に針を刺したり、心臓の下に吸盤を張り付けたりしているのである。
問題の採血。
案の定であったよおっかさん。
腕を、小型枕に乗せた途端、「こんにちはー」「具合悪くないですか^^」などと明るい声をかけてくださっていた職員の方が、固まった。
無言で腕を見下ろし、おもむろに、血管を押し始める。
タッチパネルじゃないのだから押したところで何ら反応はない。
「見えないですね」
職員さんが呟く。
見えないのは私のせいなので「すみません」と謝る。
「いえ、謝らなくていいですよ」
「すみません」
飼い主、もしくは、所属長、工場長、としての責任を感じる私。
うーん、と唸りながら、職員の方が針のケースを外す。
これ、刺した瞬間に、血管じゃないとこ行った! というのが分かるの不思議ですよね。
痛い。
何してくれとんねん! と言いたくなるほど痛い。
「あれ~、おかしいなあ」
職員の方、首を傾げる。
針を抜く。抜くときも痛い。初めから終わりまでまんべんなく痛い。
「そっちの腕、いいですか?」
お手、と言われた犬のように反対側の腕を出す。
何しろ相手は凶器を所持しているのである。言うことを聞かないと何されるか知れたものじゃない。
その腕もダメだった。
腕を下げて振ろうが、叩こうが、擦ろうが、全くダメ。針の穴だけが順調に増えていく。
職員の方「すみませんが、一度散歩してきてもらっていいですか」
「さ、散歩」
THE・犬。
施設内を徘徊する。
採血に当たって、散歩を命じられるのは初めてである。
戻ってきたが、まだ採れず、今度は腕を温めて来いという。施設内の給湯室で、そこにいた掃除のおばちゃんに断ってお湯を使わせてもらう。
このまままた採れなかったら、手か、足からなんだろうな、あれ、馬鹿みてえに痛ぇんだよな、と暗澹たる思いに沈む。
とぼとぼと採血会場に戻る犬。
今度は採れた。
「ああ、よかった! おめでとうございます!」
祝われた。
血を採られて祝われた。
来年もひとつよろしくお願いします。
ちなみに今日一番笑わせられたのは待合所でのおばちゃん。
隣に座ってたおばちゃん、目の前を通りかかったおじさんを、「ちょっとあんた」と相手を指したそれ、採尿ケース。