不思議な話が好きである。
科学で解明できる話も好きだけど、「それってどういうこと?」という話も好きなのだ。
で、ここからは昨日の夜の話だけど、不思議だなあと思ったこと。
日曜日の19時は、うちの町にはほぼ人の姿はない。車通りもほぼない。
雪が積もっていると、北国の方はご存じだろうが、周囲の音がなくなる。雪が吸収するのだ。
空には氷のような星が瞬いていた。
ひっそりとした田舎町。私はひとりでてくてくと帰ってきた。
歩道はひとがひとり、やっと通れる幅しかない。
気温は-9℃で、雪は硬く締まり、踏むと、ギュッギュと音がする。
自分の足音しか聞こえない。
街灯が等間隔にともっている。LEDの冷たい明りである。それに照らされて、自分の影が雪の上を前や後ろに滑る。
前に出た自分の影を見つめて歩いていた時、後ろから、雪を踏むギュッギュッギュという足音が迫ってきた。急いでいるらしい。
人一人しか通れないので、先に行ってもらおうと、私は横の雪が盛り上がってるところに踏み込んで道を開けた。
息がかかるくらいすぐ後ろに来た。
足音がぴたりと止まった。
追い越さない。
怪しんで振り向くと、誰もいなかった。
向こう一キロ見通せる直線道路。
誰もいない。
青白い街灯が無人の雪道をひたひたと照らしている。
もし、横に隠れたりしたら(隠れるところなどなかったが)、その足音も聞こえるはずだ。
音はしなかった。
そして、気づいた。
影が、なかった。
私は自分の影を見つめて歩いていたのに、すぐ後ろに来たら、私の足元くらいには影が伸びるはずだ。ましてや真後ろに来た気配があったのだから影がないのはおかしい。
こう、こう、と吹いてくる凍った風を受けて私はしばらく、道を見つめていた。
誰の姿もなかった。