帰宅した私に、食器を拭きながら母が言った。
「あんたに留守電が入ってたよ」
「へえ。誰からだろ」
知り合いなら携帯に連絡をくれるはずである。
「それがさ」
母が布巾を上下させる。
「えっらい早口で聞き取りずれぇかったんだわ」
「あそう。だったら聞いとく」
「それがさ」
母が皿を上下させる。それをまず置け。
「消したんだわ」
「あそう。消したん……………………………………あかんがな」
「だってよぉ、早口で聞き取りずれえんだもの」
母の理屈は、聞き取りずらい留守電を残しておいてもしょうがない、というものらしい。
自分が聞き取れなくても、娘なら聞き取れたかもしれない、という思考はないのである。
実にあっぱれな考え方である。ぶっちぎりのごーいんぐまいうぇいである。
「まあ、用があったらまたかけてくるんでないの」
母は軽くそう言って、皿を棚にしまった。