「おじいちゃん」 ジョンバーニンガム
***おままごとのシーン***
おじいちゃん「こりゃすてきなちょこれーと・あいすくりーむだね」
孫 「ちょこれーとじゃないわ、いちごよ」
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私がジョンバーニンガムにまんまと落ちた作品である。
このひと、いったいなんなんだ。
一読したとき、私は言葉が出なかった。
ほんっとマジでなんなんすか。圧倒的すぎる。手に余るとはこのことか。
おじいちゃんが孫娘の遊びに付き合うというていで話が進んでいく。
とちゅうで、昔の遊びを教えたりする。
孫娘と同じ目線で会話をするところが とてもとても、好きだ。まじりっけなしの子供らしさと、それに混じり合うおじいちゃん。
そしてしっかり「おじいちゃんにむかって そういうくちの ききかたは ないだろ」
と口を尖らせる。
私の祖父は、私が物心ついた時から寝たきりだった。卒中を患っていた。
祖母が中心になって世話をしていた。
保育園から帰ってくると、私は祖父の部屋に行く。どういう思いで通っていたのか今となっては思いだせない。
部屋が小便臭かったのは覚えている。
老人の寝顔を見たのは、おそらく祖父が初めてだ。
歯のない口を開けていた。ぽっかりと開いたそこが怖くて興味深かった。
いつも寝ててあきないの、と聞くと、「ああ」と「ええ」が混じった返事をしてよだれを垂らした。そして、泣いた。
泣かないで、と私は言った。
みゆきがここにいるから、だから泣かないで、と私は言った。
祖父はますます泣いた。
どうして泣くのか分からず、私はただただ途方に暮れ、ベッドの柵につかまって祖父を見つめるしかなかった。
祖父は、やたらに長い指の大きな手を差し伸べてくるのだ。
私に、ずいぶん時間をかけて枕もとから抜いた札を渡すのだ。
おそらく祖父は、私が喜ぶプレゼントをその札で買い与えたかったと思う。
もっと言えば、私と一緒におもちゃ屋さんへ行って選ばせて、与えたかったはずだ。
札は震えていた。
ありがとう、と私は受け取った。
札は湿っていた。
私はお金の使い方を知らなかったので、祖父に見えないところで祖母に渡していた。
たぶん、祖母はそれを祖父の枕もとに戻していたと思う。
札はもうすっかりボロボロだったから。
私は、この祖父から、溺愛されていた。
祖父は活動を奪われた。
言葉を奪われた。
表情を奪われた。
が、しゃべれなくても微笑めなくても動けなくても、寝たきりでも、自分でおトイレに行けなくても、
唯一残されたできること。
誰かを愛するということ。
枯れ木のような手が握るのは、本当は、金なんかではなかった。
私はバーニンガムの「おじいちゃん」を開くたびに、祖父に会う。