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ご近所さんのお引越しの 平和なひとコマ

 

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裏のアパートに新家族が越してきた。

私んちからはアパートの玄関は見えないが、二階の窓やキッチンの窓は見える。

物音や声などから察するに、引っ越し業者さんを利用せず、自分たちで荷物を運びこんでいるようだ。

 

大きな物音と、きゃああ、という小さな子供の声も響く。あちこちの扉が開けられる音もする。

 

「あー! 雑巾落としたー」

 と、聞こえてきて

 ひょいっと見ると、二階の窓から身を乗り出して草がはびこる地面を見下ろしている若い女性。窓辺にバケツが見える。

「拾ってきなさいよ」

 というそれより年齢は高い女性の声がした。

 また少しすると

「あっ バケツ落とした!」

 いろいろ落とす方のようだ。財布とか、運とか落とさなきゃいいけどと思っていると、

「あっ おじいちゃん!」

 ええええええ。おじいいちゃああん!

 あたしゃ思わず立ち上がったね。

 おじいちゃん、落としちゃまずいだろ。物騒だろ。事故というかもうこれ事件だろ。船越さんが黙っちゃいないよ、崖じゃないけど。片平さんだって出張ってくるよ。どうすんの。

 

おそるおそる窓へ近づくと、

手にハンディモップを持った女性が外に出てきて、草むらから拾い上げたのは写真立てだった。

 

よかったおじいちゃんの写真だったのか。

 

 それからまたドスンバタンと聞こえ始めた。子供がぎゃあああと泣き始めた。

 妙齢の女性の声で「静かに!」という本日、最大声が響いたので、私は窓を閉めヘッドフォンをした。