ちょっとキャラじゃないと思われるかもしれません。
私が、デキる人間であると とうとうバレてしまうかもしれません。
でもキャラ違いと謗られることを恐れずに書いてみたいと思います。
出勤日の朝。
卵をふたつ上手にフライパンに割りました。
シンクでも床の上でも、親父の頭の上でもなく、フライパンにです。
もうこれで私がどれだけ仕事ができる人間か、聡明な諸兄はお判りいただけたことでしょうが、いまひとつピンと来ておられない方にさらにご説明させていただきます。
火にかけて、振り返った拍子に何したと思いますか。
そうです、フライパンの柄を袖にひっかけて落としました。
あれは、よくできている原理だと感心するのですけれど、必ず、底を上にして落ちますね。
地球規模での決まりなんでしょうね。少なくとも町内会での掟程度ではないと思います。
まだ生の状態の卵が、キッチンマットにべっちゃりです。
わーお!
一般の方ですと、軽く絶望させられるシステムですが、相手は私です。
私は慌てません。
仕事ができる人間は、「やはりそうなりましたか」「いつものことさ」「OK、想定内」という余裕を常に持っているものです。
ちなみに女性というものはそういう落ち着き払った余裕のあるひとに好意を持つものです。そろそろ私にも女性にモテる日が巡ってきてもいいはずです。
ということで、しばらく見下ろしてました。
呆然としていたのではありません。
そうやっていたら、時間が戻るんじゃないかと思ったのです。
そうやっていたら、ひよこになるんじゃないかと思ったのです。
さすがの仕事ができる忍者・美由紀も、時間は戻せず雛も孵せず。
いつまでたってもマットをどろりとした黄色い液体が汚してるだけでした。
このまま果報は寝て待てのごとく、じっと時の流れに身を任せて、卵がカピカピになるのを待とうか、と一瞬、頭をよぎりました。
しかしそれにはかなりな時間が必要になります。
私には、勤務時間というものがあります。
のんきに鼻を垂らして、それが乾くのを見守っているわけにはまいりません。
私は、おもむろにキッチンペーパーと濡れ雑巾を用意しました。
こういったことでの最も重要なことは、
片づけ対象にこちらの動揺を悟られてはいけないということです。私はもちろんうろたえたりなんかしません。こういった片づけは日ごろいやというほど経験してきているプロですから。
素人さんはとにかく、冷静を装ってください。そうじゃないと、あっという間に片づけ対象はあなたの心中を見抜いて、面白半分に事態を悪化させてきやがります。
卵を包んで捨てた後、両手で力いっぱい拭きました。
予定ではこれできれいさっぱり跡形もなく、現場を収めることができたはずなのです。
ところが、取れる気配がこれっぽちもなく、あまつさえ、ずんずんずんずん毛の中に入ってくのです。
不思議ですね。
重力の不思議なのか浸透圧の不思議なのか、私が押し込んでいる不思議なのか。
闇落ちする気かっってくらい、沈んでいくのです。
キッチンマットに風穴が開くかというほど、こすりにこすったのですが、天晴なほど無意味でした。
いいだけ伸びるのです。
庭に引きずり出して、洗いました。初めからこうすりゃよかったと新しい発見に心を躍らせ、手を震わせ、眉間を寄せながら。
これ、朝ですからね。出勤前ですからね。朝のくそ忙しいときに私、これやりました。
朝飯前です。飲まず食わずです。
これだけやって、ギリ、遅刻しませんでした。
このことから、私がいかに仕事ができる人間であるかお判りいただけましたね。
ね?