本日、発売になりました。
なにとぞ、よろしくお願いします。
以前、このブログで途中経過をご紹介させていただき、煙草の箱と原稿を載せたものが、拙作です。
この拙作で一番好きなのは、
犬の久太郎だ。
うちで飼ってた犬は私を小馬鹿にし、足蹴にし、帰宅した私を思う存分吠えたて(一昨日きやがれ、と)、私の飯を奪い(お前に食わせる飯はねぇ、と)座布団を奪いストーブの前を奪い見ている最中のテレビの前に座った。ネズミ捕りにつかまったネズミに威嚇されると私の後ろに回って私の膝の裏を鼻でどついた(下僕よ、見てこい、と)。
叱ると口答えして自分が勝つまで吠えたポリシーをしっかり持った素晴らしい犬であった。
で、この小説の犬は、主人公・一葉(かずは)の忠犬である。一葉が大好きで、犬らしく焼きもちも焼くし(焼かれたかった)、キュウリを食べるし(私が食って、うちの犬は肉を食っていた)、吠えるし、跳ぶし、走るし、嗅ぐ。
とにかく、THE・犬 を書いた。
しかし、これは本筋ではない。
本書は、盛岡市が舞台。前作「花木荘のひとびと」と同じ街である。雰囲気も似ている。
ゆったりと流れる北上川を見て、書こうと思った。
四世帯入るアパート。
展開される料理はすべて圧力鍋で作る。
1章・~ ほこほこポトフ~ 家庭科教師がお隣に越してきて、失恋から飯を食えなくなり、死にかけていた主人公・一葉は家庭科教師・柊の「おすそわけ」により、生と自身を徐々に取り戻していくことになる。
2章・~ 肉の旨みたっぷり角煮~ 書けなくなった小説家と鬼編集者の攻防。きったない格好してひげ面、ビーチサンダル、ヘビースモーカーのへらへらした食えない(いろんな意味で)作家が、一葉の上の部屋に越してきた。久太郎をめぐって一葉ともめる。
そこに、東京から目くじらを立てて編集者が乗り込んでくる。すったもんだが小さなアパートで起こる。
3章・~ 質のいいミルク&卵のあったかプリン~ 母子家庭が越してくる。高校一年生女子は柊が担任しているクラスの子。まじめで控えめ。しっかり者だが、、。
この章では柊の過去も明かされる。
書きながら彼らを観察していると、
傷ついても、このアパートのひとたちは生きていくのである。
彼らは
みっともなく転び、
みっともなくもがく。
それでも、彼らは、朝になれば目を覚まし、飯を食い、立ち上がり、泣き、笑い、眠り、そしてまた次の新しい光の中で目を覚ます。
(2章。ラスト)
ひとつの季節が終わる。
終いの雨のにおいをまとう風は一年のうちで最も慈愛に満ち、世界のあらゆるものの深い傷について知っている。
その風は、傷の奥にも吹き込みやがて乾かすだろう。
次の風は、頭上を覆う灰色の雲の上には必ず澄んだ青空が広がっていることを教えるために吹き渡る。
再び羽を広げて大空の高見を目指すため、今すべきことはこの風に吹かれてここでゆっくり休むことだ。
忘れてはならない。嵐は、次に訪れる安息の前触れ。
この世のすべてに安息と祝福を――。