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お勧めの④ 最終日

はいはいはい。

早く終われと願っていた良い子のみんな。

お待たせしました、今日でやっと最後ですよ。よく頑張りましたね。

 

ではお話しさせていただきましょう、続きです。

 

宗教の勧誘かと疑った心の小汚い私に、いいひとを紹介してくれるとおっしゃるご婦人の到来。

数年前に丁重にご辞退申し上げたはずだった。

 

 

 

 そして、いま現在。

 帰宅途中。

マスクを付けて歩く人のイラスト(女性)

 

 ご婦人がクルマを停めて帰宅途中の私に声をかけてきた。

 数年前と同じ件を勧められた。

 あの話、まだ続いとったんかああああい。

 

「私、41(歳)ですよ」

「あら。今の時代、年なんて関係ないわよ」

 即座に却下される。

 しまった、200歳って本当のことを答えればよかった。さばをよみすぎ墓穴を掘った。

 私は言葉に窮して仕方なく、ずり下がってきたマスクをずり上げる。平らな顔は、よくマスクが下がるのだ。

 

 ご婦人は、私のTwitterやこのブログをご覧になってはいないのだろう。

 だから、恐れ知らずのニコニコ顔でお話を持ってこれるのだ。

 私を勧められてしまうお相手が気の毒で、私は考えただけでその不幸に泣き崩れそうになる。お悔やみ申し上げます。

 

 あれから数年。ふと、お相手の方、今は医療費一割負担のお歳になってるんでないべか、と思い至った。(当時から一割負担だったとしたらすみません。)

 だとしたら、私のように手数のかかる(私自身も自分を持て余している)人間じゃなくて、もっと円熟した人間的に素晴らしい人と一緒になるべきじゃないの?

 初めて彼女に声をかけていただいてから私は、「食べられるものしか使ってないのに、食えないものが出来上がる」と他をして言わしめた奇跡の料理の腕前を保持したまま一向に炊事もできず、レンジがあればなんでもできるという猪木式考えの元、炊事をしようとも思わず、魚肉ソーセージの「1秒オープン」ができず、パソコンが親友で、電話は宗教の勧誘と保険の検討を勧めるものがほとんど、一人で薄らぼんやり過ごすのが好きなままなのである。

 

 

「ええと、そのぉ、お気持ちは大変ありがたいのですが、ええ、どうもありがとうございます。でもまあ、うーんと……そおぅっすねぇ……あ、友だちってのはいいですね。その方の負担にならない程度の薄~いお友だちというのでひとつ手を打……」

「あなた、老後ひとりだとほんと寂しいわよ。ね? いっしょに生きる人がいるのは心強いものよ。何かあっても頼れるし。支え合っていけるし。その方、ほんとにいい人だから、誠実で真面目で。私もそういう人に巡り合えればよかったんだけど」

散々伴侶について推してきた彼女の語尾に私は引っかかった。

「はい?」

 今なんつった。

「あたし、独身だから」

 眩暈がした。

 ええええええええ!!!

 私史上、最も力強い「えええええ」だった。声に出してたら、Jアラートと間違われるくらいの「えええええ」だった。

 これまでの一連のくだりはなんだったのだ。

4連日にわたるこのブログは何だったのだ。読んでくださった方に申し訳が立つめえ。

 

「あらまあこんな時間。お引止めしてごめんなさいね。また会いましょう。彼にも。図書館におうかがいしますね。じゃ」

 そういって、颯爽とクルマに乗り込んで行ってしまわれた。

 

 排気ガスを浴びて見送りながら、私は脱力の笑みを漏らすしかなかった。