昨日の続き。
数年前のこと、押しの強い善良なご婦人に「お相手」を紹介された。
スーパーマーケットにての立ち話。
「……はい?」
寝耳に水で、私はここぞとばかりに純真無垢な感じで聞き返した渾身の「はい?」である。
相手は私の上を行く純真無垢さで、にっこりする。
「とっても誠実で真面目で、いいひとなのよ」
おばさまは、老後ひとりだと寂しいでしょうとか、不安でしょうとか、伴侶がいると心強いわよとか、まくしたてている。
お相手と言っても、疑っていた「教祖」ではなさそうだ。
私は薄ら笑みを浮かべて、あいまいに目を逸らす。
帰りたいよぅ。
この状況何。
いかついな。
えっぐいな。
どういう流れでこういう話になっていたのだ。記憶がない。もしや、無意識のうちに1ダースくらい飲んじゃったんじゃないだろうか。会計もしてないのに。
背後に隠したかごをチラリと見やる。未開封のアルコール、ある。大丈夫、開けてない。
「その方は、あなたより、ちょっと年上で頭が薄くてぽっちゃりさんなんだけどね」
年がいっててもハゲてても、デブでもブスでも足が臭くても脂っぽくても、そういうのはどうでもいい。
それよりも、もっと重要なことがある。
「ああ、ええと。多分、その方が私に対して『ちょっとこのひとは無理』ってなると思うんですよね」
ほかのひとができることが、何一つまともにできねえこんな人間、誰だって遠慮したいだろう。犬のほうが、言うことを聞くだけマシである。私は言うことさえ聞けないのだ。私ができることと言ったら、せいぜい、相手に恥をかかせることくらいです(断言)。
それを私基準で、精いっぱい丁寧にお伝えしたら、ふふふ、とお笑いになった。
続く――。