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髙森さんとこの工作①

ウィンドチャイムを探している。

要するに風鈴。

うちの窓には南部鉄器の風鈴が下がっているが、あのしっぽのような、こいのぼりで言うところの吹き流しのような、ペラペラの尾みたいなやつありますでしょ、風鈴の股に下がって日がな一日ふらふらしているあれ。あれを引きちぎってしまったため、よほどの強風じゃないと鳴らなくなった。

そしてよほどの強風の日は強風の日で、窓にガッツンガッツンぶつかるわけです。

相手は鉄だし、受けるはガラスということもあって、ガラスが木っ端みじんに砕ける前に何らかの対応策を講じねばなるまい、と第二次だったか大惨事だったか、髙森内閣は思案したわけである。

導き出した対応策。――よし、中にしまおう。

……ということで、一体何のための風鈴か、と。

 

そこで、新しいものを買おうと思った。

 

楽天とかアマゾンとか見ていると、なんということでしょう。木の枝をぶら下げたものや真鍮の棒をぶら下げたものなど多種多様なものが売られていて目からうろこだった。

 

風鈴は、鉄だのガラスだのばかりじゃないのだ。

木製のやつはバリ島の風鈴だそうだ。バリ島! 

世界は広い。

するとなんですか、この、そこいらから拾ってきたような木の枝を寄せ集めて紐でくくった代物が、極東の小さな島国の列島最北の、人口9000人余りの農村地帯の吹けば飛ぶような民家の軒先にぶら下がったが最後、極楽鳥が舞うトロピカルなバリ島のコテージになるとおっしゃるんですねあなた!

これにしよう。バリ島にしよう。北国に極楽鳥を舞わせてトロピカーナといこうじゃないか。レッツバカンス。

鼻息荒くポチろうとしたところ、音を確かめるアイコンが出ている。

御親切だ。至れり尽くせりだ。なんとしても買わせようという並々ならぬ情熱を感じる。

押してみた。

からんころん、という下駄のような音が聞こえた。

なんとものどかで風情がある。気に入った。

ウィンドチャイムが製品になるまでの作業風景も載っている。

 

木の枝を、サンダルをはいた褐色の肌の男性がのこぎりで切っている。東屋のような作業所にカラフルな布を頭からかぶった数人の女性が座り、テグスで結んで支柱に括り付けている。それを軒先に吊るす。

以上です。おつかれさまでした。

「これほど大変な作業をあなたは指先一本動かして、画面にあるそのカートのアイコンをぽちっとしさえすればいいのです。あとは、カウチに寝そべってトロピカルジュースを手にポテトチップスを貪り食っているだけで手に入れられるのです、12000円です。私からは以上です」

 

というような説明が書かれてある。

 

まーじーどぉえええ。

こっくりさんの10円玉のように、カート目指して進みかけていたポインターが止まった。

 

わたくしの頭に響いたのは、そうです、悪魔のささやき。

 

「作れんじゃね」

 

ということで、竹を採ってきました。

極東の、ひしぎ出された歯磨き粉のような形をした島国の列島最北の、人口9000人余りの高齢化率40%超えの農村地帯のくたびれた民家の近くには、荒れ果てた竹林があるのです。というか、人んちの敷地かもしれませんが細かいことはいいのです。

 

のこぎりで切りました。

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案の定、親指の付け根を切りました。

ご近所さんちの窓が開き、おばさんが無言で私を見ました。

猫が尾を揺らして遠くから見ていました。

 

気を取り直して鉈をふるいます。風当たりを強くするために半分、削ぐのです。ちなみに猫は逃げました。ご近所のおばさんは窓を閉めました。

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次回はテグスの穴を開けます。