前回の続きです。
暇なのか? と訊ねるかたもございましょうが、
暇です。
テグスをとおす穴を開けます。
キリを両手で挟んで念仏を唱えるように、というか、ハエのようにこすり合わせるのです。
ハエの気持ちがよくわかりました。
味を知ろうとしていると理科の授業で習いましたが、
自分がよくよく手をこすり合わせてみれば、
ハエは、悔恨の念に苛まれている! のである。そして懺悔しながら、懺悔できることに感謝しているのである。
なんということか、ハエ。
うるさい(五月蠅い)、という言葉にあてがわれているが、ハエは悔恨の念をもって懺悔しながらかつ感謝しているのである。このような高等な真似を、哺乳類ヒト科ができようか。
普段暮らしていて、ハエの気持ちを理解することは稀であろう、ありがとうハエ。
というような愚にもつかぬ思念の穴に落ちてしまいかけるのが、キリで穴を開ける作業の醍醐味である。
しっかしこれ、どれだけ擦り合わせても穴なんか開きぁしねえ。
開く気配がねえ。
どやすべ、一生手をすり合わせてなきゃいけねべか。
いい加減、手のひらのしわが消えるんでねかべか。
ひたすら擦り合わせる。
念仏でも唱えるべか。
あ、ひょっとして美顔ローラーってこの原理を応用したものじゃないのかしら(雑念)。うそまじで? 特許庁に申請しなくちゃ。それにしてもあの肉たたきのような重さのあるチタンのローラー、アレ、捨てなくてもよかった、2本。
開きました。
この穴から輝かしい未来が見えます。
コロナは収束し、世界は平和になり、私はこの音色の特許を取り、人々から称えられ、莫大な使用料で左うちわの生活をするのですめでたしめでたし。
穴の下がわずかに削れているのがお分かりいただけるだろうか。
穴を開ける際、キリが滑ってしまわないように平らにしたのである。というか、さも偉そうに
「前からこの方法は知ってましたが何か?」
的に講釈垂れてるが、一回指に刺したせいで編み出しただけだ。
何事も痛みを知らないと覚えないたちなのよ。
ここまでで実にのべ40分かかりました(竹の採取を除く)。
3本できたわけだけど、本数が少ないのでまた採ってきたいと思う。
完成まで、まだまだのようだ。