私は、常々、自分の脳みそを諦めているのだが、
まずもってひとの顔を覚えられない。
一回や二回会っただけじゃ、まず覚えないし、
三回会った人でもひと月もご尊顔を拝まなければ忘れている。
常に「初めまして」状態なのだ。
同窓会は、すべて欠席している。
何年も会ってないわけだから、
もちろん、この私が覚えているわけがない。
おまけに、私んちに卒業アルバムは一冊もない。
なので、確認のしようもない。
こんなんなので、同窓会にはどの面下げて行けようか。
身もふたもないことを言うかもしれないが、
記憶に残っている方がないのである。
そして今日、出勤途中に後ろから、明らかに「ギアをロー状態でベタ踏みしてます懸命に!」といった感じのきっついエンジン音を響かせた車が近づいてきた。
通りすぎるのかと思ったら、真横に停止。銀色のワゴン車。
窓からおばあさんが顔と肘を出した。背が小さいらしく辛うじて顔が出ていて、肘でぶら下がっているように見える。
「どこさ行く? 乗っけてくか?」と、親指で助手席を指す。
……まず、誰。
視線を下げると、車のバンパーは外れかけ、リアドアがべっこし凹んでいる。長々とした傷が横っ腹に刻み付けられて、クルマは満身創痍である。
丁寧に遠慮させていただいた。
かえすがえすも、誰。