青森県南地域には、「南部菱刺し」なる刺し子文化がある。菱形の模様を挿すのだ。津軽地方に伝わる「こぎん刺し」と似ている。どちらも布の縦糸を数えてまたいで刺していくが、こぎん刺しは奇数本、菱刺しは偶数本をまたぐ。よって菱刺しは、横長の菱形ができる。資料を見ると、昔から赤や黄色オレンジなどの色を使ってカラフルだ。
明るくおおらかなイメージを受ける。
これを、今回は題材にした。
編集Yさんのご提案である。
4章に分かれており、菱刺し工房に集まった4人の春夏秋冬。
進路に悩む高校生、結婚を前にした女性、認知症の母を持つ南部せんべい屋の女性、ある事情からひきこもりになった30代男性。
こうやって並べると暗い話の感じもするけど、さほど暗くはならなかった。
菱刺しの先生であるより子は明るい。各話、悩める彼らと伴走していく。
私は不器用である。再三に渡って書いているのでもう聞き飽きたと思われる御仁もおられるだろうが、言うよ。何度だって言いましょう。私は「どうしちゃったの」と言われるくらいのド不器用である。
執筆するにあたって取材をした。
取材先で体験をした。
私に針を持たせるなと言いたい。
羊毛フェルトの時のように針をへし折ることはなかったが、爪の間には刺した。
ラッキーだったのは、針の先が編み物の閉じ針のように丸いことと、教えてくださる先生(八戸市のまちぐみラボというところで活動されている)江渡さんが菱刺しのようにおおらかで明るい方だったこと。
刺し続けてしばらくたって、形がゆがんでいることに気づいた。先生に見てもらったら3針目で早速間違っていた。こんなしょっぱなから間違っているなんて、目が悪いか頭が悪いか運が悪いかしかない。
思えば私はいつもそうだ。例えば迷子になるのだって、「多分、右!」「なんとなく左が私を呼んでいる!」「あっちが明るい!」といった理由で自信満々に突き進んだ結果なのだ。方向音痴なのに好奇心が強いというふざけた性質なので、まんまと迷子になり、にっちもさっちもいかなくなって結局通行人に泣きついて助けてもらうということを繰り返しているはた迷惑なおばさんなのだ。このままはた迷惑な婆さんになるんだろう、長生きすりゃ。
菱刺しを教えてくださった江渡先生は罵倒することもなく「ほどけばいいんです。大丈夫ですよ」とにこにこしてささーっとほどいてくださった。
さすが、普段から小学生を相手にしてらっしゃるだけあって、間違える人間になれてらっしゃる。
それから、八戸工業大学 感性デザイン学部 感性デザイン学科の川守田礼子先生にもお世話になった。
どこの馬の骨か分からぬ人間の問い合わせメールに返信をくださり、的確なアドバイスとご意見を授けてくださった。
町の歴史民俗資料館の木村先生にも時代背景について教わった。
他に多くの書籍、資料が助けてくれた。
今回は、おそらく私史上初なのではないだろうか、戦後から令和という時代をまたいだものを書かせてもらえた。
書かせてくださった中央公論新社のY編集さんには、ありがたくて頭が上がらない。
また、エモい切り絵を手がけてくださった原田俊二先生ありがとうございました。
装幀家の田中久子さま、拙作の世界を目に見える形で素敵な本にしてくださり誠にありがとうございます。
「藍色ちくちく 魔女の菱刺し工房」中央公論新社
どうぞよろしくお願いします。 2023年1月19日発売です。