弘前市は鬼沢地区の伝説をもとにした角のない鬼の絵本を書くのじゃ、と東奥日報社さんからお話をいただいた時、そいつは面白そうだと思った。
やったことはないが自信満々に請け負った。
なんにおいても、やったことがないことは自信が持てる。
やったことがないことは、つまり、それについては失敗したことがないのだから、勝てる気しかしない。
私のような人間がこういうことをするのを専門用語で「安請け合い」という。テストに出るから覚えておきなさい。
伝説を書くには、資料が要る。
東奥日報社さんはご丁寧にも資料を送ってくださった。
苦手な歴史だ。漢字もいっぱいある。
基本的に、自分が知らないものを書く作業は資料を読み込む作業が全体の8割を占める。
鬼のように苦手な資料を読み込み、鬼に関するポイントをさらっていく。
ふむふむ、優しい鬼なんだな、水路を作ったんだな、相撲が好きなんだ、アイテムはこの3つか、よし分かった。
おおかた出揃ったところで書き始める。
私は基本的に、頭に脈絡なく浮かんだ画像を文章でつないでゴールを目指すというやり方をしている。
浮かんだ場面をすぐに忘れるので、付箋に書いておき、それを並べ直す。
枚数字数制限がある。さすが新聞社さんなだけあって、かなり攻めた枚数字数制限だ。それも念頭に置きながらゲームのように課題をクリアしていくのが面白い。
途中、ふざけた場面が浮かぶ。しかし書き入れると字数が大幅に超えてしまう。でも入れないと気がすまない。どうにか食い込ませたい。
悩んだ末に、よし、入れよう。他を削ればいいんだ。
遊興費をねん出するために、食費や固定費を削る節約と似ている。
新聞社のお優しいK女史にかなり助けていただき、最後の最後まで楽しく書かせていただいた。
愛らしい鬼のイラストを描いてくださったのは、もなかさん。
色っぷりもふんわりしていて温和な雰囲気がにじみ出ている。
優しくて力持ちで、とぼけている鬼と、友だちになった弥十郎という男の交流の絵本「鬼どんと弥十郎」は8/31 東奥日報社さんからの発売です。
どうぞよろしくお願いいたします。