この度、東奥文化選奨を受賞しました。
連絡をいただいたのは2月頭。仕事の昼休み中だった。
昼ご飯を持参するのを忘れて出勤し、ロッカーをあさったらひと月前に賞味期限が切れたフリスクと、昨日切れた梅のグミを見つけて、かじりながらひもじさに打ち震えていたところだった。
電話が震え、こっちだって震えてる最中だ一体何事かと出たところ、
「トウオウブンカセンショウにノミネートしました」
と、言われた。
当局が言う聞き慣れない単語になんのこっちゃと思ったし、何か応募していたかしら、と思い出そうと決死の努力もしてみた。
なにも思い出せなかった。
昼飯も忘れてくる人間に、何を思い出せるというのか。
それならば仮説を立てるしかない。
ひょっとしたら私が寝ている間に、奇特な方が私の名前で応募したのかもしれない、芸能事務所に入るパターンみたいに。
なんにしても、株を買えとかツボを買えとか何かしらを買わせる電話ではないようだし、携帯電話を切らずに今すぐATMへ走れ、と要求しているようでもないということは理解できる。
ポカンとしたまま「はあ、へえ、ほお、はあ」と返事をし、くれるものなら何でももらうの精神で「ありがとうございます」と電話を耳に当てながら頭を下げた。できれば昼飯をくれとも思ったが、これは辛うじて黙っていた。
電話を切ってから、googlの検索バーに「トウオウブンカセンショウ」と入力した。
サイトがあり、読み進めていって驚いた。驚くのが遅すぎる。突然横から「わっ」と驚かされて、翌日に驚くようなものである。そんなんだから昼飯も忘れるのだ。
授賞式が始まるまで、ゆったり椅子に座って「やっほー嬉しいな嬉しいな」とはしゃいでいた。ところが状況は一変する。受賞の言葉があると聞いたのだ。ただならぬほど緊張する。ガチガチだ。背もたれに背中がつかないほどビシャッと伸ばして硬直。
3歳の時に絵画の授賞式で賞状をくれる会長さんに、会長さんの後ろに積み上げられている商品のひとつを指し「あれがほしい」ときっぱり要望した勇気と根性とそれらを凌駕する図々しさよカムバックと祈っていたがカムバックはかなわなかった。
東奥文化選奨授賞式の場で唯一できたのは、会長さんがトロフィーを差し出す前に、手を伸ばしていたことくらいだ。
お食事会ではビールばかり摂取していた。緊張が尾を引き、ぜんぜん酔わなかった。バリッバリに目をかっぴらいて、飲んでは名刺交換をし飲んでは名刺交換をし、をくりかえしてほぼわんこそば状態だった。
多くの方と知り合い、交流が持ててありがたかった。
書き続けさせてくださる方々がなかったら、いただけなかった賞である。ありがたいことだ。ただただ感謝でいっぱいだ。
多くの方に力をいただいてきたし、ご助言をいただけたし、励ましてもらってきた。周囲にはご親切でしっかりしている方が多かった。とても助けられてきた。
そのことを改めて認識した。
この受賞を機会に、今度は自分が多くの方の力になるべく、笑えてホッとして、前を向ける小説やエッセイを書いていこう。
ありがとうございました。