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やる気元気狂気

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目覚まし時計はあっても、ベルはめったに使ったことがなかった。
携帯のアラーム設定も、邪魔くさいので使っていない。
起きる時間くらいは、自分でコントロールできる、一応、霊長類ヒト科の大人だから(夜更かしをしていない、深酒をしていない、疲れていない、勤務日ではない、起きる気がある、など条件が120個くらいはあるが)
 
ところがよりにもよって、今朝、突如として頭の上で爆音がして目を覚ました。
「戦争か! 竹槍を持ていっ」
一発目に思ったのはそれだった。が、自分が座敷のお布団に平和極まれりの状態で健やかに寝ていたことに気づき、戦争じゃなくてこれは古い電話の呼び出し音だと思った。あの黒い電話。受話器が重たいやつ。インスタントラーメンみたいなコードをつかんで振り回したら、悪漢とか悪漢じゃないやつもまとめて撲殺できそうなあの骨董電話。(寝起きなので、そう都合よく思い込もうとしたらしい。)
 
よもや自分ちのベルが鳴ってるのとは予想だにせず、
誰でもいいから早く出ておやりよ、と布団をかぶったのだが、徐々に正気になってきた果てに、
ひょっとしたら自分ちの音じゃなかろうか、そして電話じゃなくもしかしたらこれは、百有余年もその鳴き声を耳にしたものはないといわれる幻の鳥、ツッタカターメンではあるまいかと閃いた(髙森劇場にもう少しお付き合いください)。
 
次第にでかくなってくるヒステリックな鳴き声。
極彩色の巨大で肉食の鳥類のいら立ちは敵意に変わり、殺意に育つ。
耳孔にズキズキと響く絶叫。
耳から心臓に伝わり、痛みを発する貫かれる痛み。
 本気、狂気、殺意、動悸。
 寝ぼけ眼で見まわし、鳴き声の出所を確認。
 
時計。
 
そうでしょうよ。そりゃそうでしょうよ。
古来より伝わる幻の鳥ツッタカターメンが、本州最北の県の高齢化率60%の過疎の町の、冷やし中華始めました的な介護保険引かれ始めましたの私の枕元にいるはずがないじゃないか。
 
寝ているときは人でも物体でもなく、液体になっている私は、布団からずるずると這い出て、全力で手を伸ばして叩く。
叩いても叩いても音はやまない。なにこれ。どうなってんの。
叫びまくるこの時計、サイコパスでらっしゃる?
明けきらぬ朝っぱらからテンションブチ切れの絶好調か、ご乱心でらっしゃる?
 
時計、今にも走り出しそうである。
 時計だから許されるのであって、これ人間だったら、朝3時に奇声を上げ走り出したら通報ものでしょう。
朝っぱらから奇声を発する時点でアウトだけど。
(てか、3時にセットて。誰のいたずらか、恨みか、超常現象か)
 
わたくし、いい加減、起きました。根負けしました。
そして悲報。わたくし、倒れた時計の横っ面を躍起になって叩いておりました。
 
狂気な時計を止めねば、息の根を。
 
てっぺんの突起を押せばすむのに、私は何を思ったのか、裏のふたをひっぺがえして電池を抜いた。
殺(ヤ)られる前に、殺(ヤ)らねば、という
極限状態の心境だったのだろうか。
 
 
ところで、目覚まし時計というやつは、本当に起床を促すのが目的なのだろうか。
夜討ち朝駆けっつー言葉がございましょう。
心臓が痛いんだってば。軋んじゃうんだって。
 
今朝の仕打ちからして、
時計は、実のところ、ミジンコのうんこくらいの心臓しか持ってない人間を永遠の眠りにつかせようとしてるんじゃなのか。