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ここはどこですか。

道案内をしている警察官のイラスト

 

八戸で、長靴を履いて、農作業に適したカシャカシャした素材でできた防寒着(ピンクの小花柄)を着たおばあちゃんに「バス停はどこだべ」と問われた。私は八戸市の住民でもないし八戸の地理には明るくはないのだが、周囲を見回すと目に入ったので、あそこですよ、と教えた。

おばあちゃんは、どうもどうも、とお礼を言って長靴をガフタラガフタラ鳴らして歩いて行った。

どう見ても、私よりあのおばあちゃんのほうが土地勘があるように見えたが。

 

浅草に初めて行ったとき、中東系の人にカタコトの日本語で道を聞かれたことがある。

おそらく彼らは、平たい顔なら当然日本人で、日本人なら当然、浅草を熟知していると決めてかかっていたのかもしれない。

私もさっぱりわからなかったので(何しろ初めて行ったので)、店の人に尋ねた。その店は、四つ足が固定されたブリキの犬がわんわんと吠えるおもちゃや、サルがシンバルをやけっぱちに打ち鳴らすおもちゃを並べている昭和の骨董を売っているような店だった。

日本人としての矜持もなく、臆面もなく店員に尋ねる私を、中東系の人は「平たい顔のくせに、使えない」という目で見ていた。

店員さんは的確に教えてくれたので、中東系の人はホッとして目的のほうへ去っていった。

私もその店員さんに道を聞いた。私自身、迷子だったのである。

 

かなり昔、修学旅行でネズミーランドに行った時も、園内地図を手にした子供連れの女性にアトラクションの場所を聞かれたことがある。その女性、マップを逆さに持っていた。

 

私はばっちり制服を着ていたので「修学旅行で上京してきました!」と主張しているわけである。なんなら、ほっぺだって赤いのである。ソックスは白なのである。もっというなら、私はみんなとはぐれて、うろうろしていたのである。

にもかかわらず私に聞いてくるなんて、相当な命知らずだと思った。

ひょっとしたらこの親子は、私をネズミーランドのスタッフだと思ったのではあるまいか。制服を着ているキャラだと思ったのではあるまいか。まさか、すべてをひっくるめた着ぐるみだと思ったのだろうか。私着ぐるみなのだろうか。

混乱しつつ、なんだあの城みたいなやつ、あそこの前に暇そうに立ってた番兵みたいなひとに引き渡した。

 

名古屋に行った時も長野に行った時も……まあいい、こんな感じで、無関係な土地で道を聞かれることがある。海外には行ったことがないが中国や韓国辺りでは聞かれるかもしれない。その国の人たちなら自国民と他国民の区別はつくだろうが、日本人旅行者には聞かれるかもしれない。その時は正直に言おう。

「私も迷子なんです」